元.監察官のドッキドキ☆本丸カルチャーショック

[山姥切長義+俱姥俱] 前監察官的小鹿亂撞☆本丸Culture SHOCK 的日文版。




  審神者職務室。

  「主?おやつの時間だよ。」襖の外から、燭台切光忠の声がした。

  「ありがとう。入っていいですよ。」

  「今日のメニューはいちご大福と鶯丸さんお勧めの玉露…ん?長義くんは?」

  「まんばの部屋で仕事してもらっています。」

  職務室の隣の部屋は、元々近侍部屋という。しかし、初期刀.山姥切国広——審神者のいう『まんば』——は長期近侍を務めている為、たまに他の刀が近侍になったとしても部屋を変えることはなかったので、あそこは實質彼の個人部屋である。

  「へぇ?どうして?」

  「この二日、長義の様子を、どう思いますか?」

  「この二日…?うん…あんまり顔には出ていないけど、前より元気があって、纏う空気もあんなにピリピリしていなかったよ。本丸に馴染みつつある、かな。」

  「さすが光忠さん、みんなのことをよく見ていますね。」審神者が微笑んで、茶を一口啜り、こう続いた:「実はね、長義の契約術式に不具合が見つかりました。三日後、政府のテクニシャンの所に連れて、調整してもらう予定です。」

  「えっ?」突拍子もないことに、光忠は首を傾げた。

  審神者が、説明を続く。

  つい先週、政府からこの本丸に配属された、元監察官である山姥切長義。この前はずっと政府の刀剣でいた為、その契約を審神者に移る必要があった。しかし、その儀式に小さな不具合が起こったらしく、長義の霊力の波長はいまだに政府システム寄りで、審神者の波長とうまく同調していない。

  そのせいで、この本丸という領域は彼を完全に『この本丸の刀剣』として受け入れていない。だから、彼は本丸の中にいても、精神状態は出陣中や遠征中と同じで、気を緩めなくて、疲労は溜まっていくようである。

  「本刃は認めていませんでしたが、この本丸に来てから、まだ碌に一睡もできていないと思います。」悔しげに、審神者が言った。「来てすぐ、仕事を手伝ってもらっているのに、もっと早く気付くべきでしたね…不甲斐ない私で…——まあ、それはさておき、一昨日やっと不具合に気づき、先輩の審神者に相談し、政府のテクニシャンを予約したのです。しかし、すぐに調整できるわけでもないので、その前に何かできることはないかって尋ねてみたら、」

  「山姥切くん——山姥切国広くんの霊力に接触させて、と?」長義が来てから、光忠は『山姥切』という単語には気を使っているつもりだが、ふとしたときに忘れてしまう。この本丸大体の刀剣は山姥切国広のことを『山姥切』と三年以上も呼び続けていたのだ。習慣というのは、なかなか簡単に変えられるものじゃない。

  「然り。もっと的確にいうと、『自身と霊力の形が近い刀剣』の霊力に接触することです。」

  「同じ刀派の僕たちより、『山姥切国広』の方が適合した、か…」

  「うん。ちょっと皮肉かもしれません。彼らの霊力の形は本当にそっくりそのままなんですよ。直接に会わせる必要もなく、長義をまんばちゃんの部屋に何時間かいさせただけでこの効果ですから。」

  「長義くんがそれを知ったら…」

  「もう察している思いますけど。まんばの部屋に行かせた理由もすごく適当でしたし。でも、察したとして、表には出しませんからね、彼。知る由もありません。」

  ふと、審神者も光忠も、山姥切長義がこの本丸にやってきた日のことを、思い出した。山姥切長義と山姥切国広は、言葉を交わしたらしい。聞かれたら、山姥切国広は『彼には彼の思いがあって、俺もまだ考えている』と、曇りなき目で答えた一方、山姥切長義はただその優雅な笑みを崩れずに質問を受け流した。しかしその綺麗すぎた笑みの裏に、何かすごく歪んだものがあると、光忠は感じた。

  「はぁ…修行から帰ってきて、迷いも卑屈も吹っ飛んだうちの総隊長殿とは違って、長義くんってかなり繊細なんだからね…大丈夫かな…?」

  「ふふん。親心…お爺様心ですか?」

  「ん…同派のよしみはもちろんあるけど、仮に長義くんは長船派の子じゃなかったとして、ただ本丸の先輩後輩としても、僕も同じ心境かな。」

  「さすがうちの初太刀です。まあ、光忠さんが見守ってあげていれば、大丈夫と思いますよ。」

  「気が長いね。主は。」

  「君たちの『心』の成長を見ていくのは、何よりの喜びなんですから。苦しむ姿を見ると焦ったりもしますけど、それも成長のうちだとちゃんと分かってます。彼らで彼らだけの答えを探し出せると信じていますから。いくらでも待ってあげましょう。だから光忠さんもあんまり心配しないでください。本丸のみんなのことを、続けて見守ってあげてくださいね。」

  「はい。」にっと、光忠が笑う。「じゃあ、長義くんにおやつを運んであげてくるね。」

***

  俺は山姥切長義。元は政府直属の監察官で、6日前この本丸に配属された。この本丸を、俺は『優』と評定している。資料を見るだけ、審神者の資質は抜群なわけでもないが、優秀な成績を出している。刀剣たちの士気が高く、身も心も好調を保っていて、よく管理されている本丸だ。この本丸の審神者の元に、俺は本丸所属の一般刀剣男士となったわけだ。

  本丸に来て早々、俺は審神者に重用された。政府にいる頃の経験を生かし、審神者の職務を補佐する。想定内のことだ。持ってる者こそ、与えなくては。出陣、遠征、演練、そしてノーコメントな内番——大抵のことは想定通り。しかし、新しく知ったことも、少し驚いたことも、あるにはある。

  まずは、食べ物だ。俺の歓迎会で、『料理』なるものを初めて見たとき、『効率がない』としか思えなかった——この依り代にエネルギーを提供するだけだ。そこまで手間暇かける必要はどこにあるというのだ。

  しかし、周りに勧められ、一口試したら、全く認識がひっくり返った。肉体を得て初めて知った。摂食は、『幸福感』を伴う行動だと。エネルギーの提供だけでなく、プラスな感情を引き起こして精神状態の調節すらできる——これはもしや、この本丸の高い士気の主因なのでは?本丸の食べ物は、極めて効率がいい。体も心も養える優れものだ。この6日間、一番感慨深いことである。

  「山姥切くん、おやつを持ってきたよ。」燭台切光忠の声だ。長船派の祖であり、俺に食べ物の深みを教えてくれた、料理に長けている刀剣の一振りでもある。

  立ち上がって襖を開け、燭台切に礼を述べつつ、お茶とお菓子ののったお盆を受け取った。

  濃い灰色の丸皿に、白い大福がのっている。そしてこの香り…先日鶯丸と飲んだ玉露ではないか。実に不思議だ。こうして、視覚と嗅覚だけで、すでに『嬉しい』気持ちになっている。

  頂く。餅、あんこ、いちご、違う食感と味が絶妙なバランスをとっていて、とても美味い。茶を一口。茶の旨味と、口に残った大福のほんのりの甘さと共に、程よく、暖かく身に沁みる。本当に…不思議なことだ。

  ちょっとまぶたが重くなった気がする。

  これも、本丸に来て驚いた事のうちに入るかな。初めて、身を以て睡眠の必要性を感じたのだ。政府いた頃は、いつも寮で規則正しい生活をしていて、絶好の体調を保っていて、疲れを感じたことはなかった。しかし、この本丸に来てから——先日審神者の解釈によると、原因は契約術式の不具合らしい——ここの空気に中々馴染めなくて、ずっと気を張っていて、眠ることも叶わなかった。よって、初めて『眠い』という感覚を体験した。

  形こそ似ているが、刀剣男士の体は人間よりずっと丈夫な作りである。睡眠不足くらい、支障にはならない。強いて言うなら能力を完全に発揮できないくらいだ。三日後、政府のテクニシャンに調整してもらえると審神者が言った。それまでしばらくの辛抱だけだ。

  今いるこの部屋は、審神者の話によると、本丸の『パワースポット』で、ここなら俺も少しは休めるかもとのことだ。『パワースポット』って……霊脈と捉えていいだろう。実際にここで仕事をしてみた結果、確かにここの空気は馴染みやすい、気を張らなくて済む。なので、ここが偽物くんの部屋であることが少々気に食わないが、審神者の好意に免じて、ここで仕事をし続けることにした。

  いい方に考えると、ここ数日、偽物くんは第一部隊を率いて秘宝の里の調査に取り掛かっていて、昼間は基本留守なのだ。あいつと同じ部屋にいなくて済むのがもう幸いだ。

  仕事も終わったし、第一部隊の帰還までは三時間ほどある。半時間くらい、お昼寝でもするか。そう考えて、こたつに入り込み、布団を肩までかけ、目をつむった。

***

  何か物音がする。意識がどんどん浮上する中、違和感を覚えた。

  血と戦の匂いがする。

  物音の発生源に振り向く。

  ——想像以上、疲れているかな、俺。こんなふざけた夢を見るだなんて。寝なおそう。次に目が覚めた時、現実に戻れるかも。

  視覚を遮った。が、音も、匂いも、相変わらず、嫌なほど鮮明なまま。

  ——夢じゃ、ない、と。

  絶望の中、再び目を開けた。

  ——違うんだろう。なぜだ。

  今、俺が居合わせているのは、二振りの打刀——偽物くんと大倶利伽羅——が、まぐわっている現場だ。(ちなみに大倶利伽羅は出陣の名残に傷を負っていて包帯を巻いている、血の匂いは彼からだろう)

  目を逸らす。とりあえず見ないふりをしよう。息を殺して隠れて、あいつらが終わった後隙を見てこっそり出て、そして全てを忘れよう。

  「山姥切……」そう呼びかける声が聞こえて、(気に食わないが)それが偽物くんを呼んでいることに気づくのが一歩遅れて、もう反射的に振り向いてしまった。

  目が、合った。金色い目と。

  『見られた』と一瞬慌てたが、その目に俺が映っていないことがすぐに分かった。

  ——あのいつも鋭くて冷たい金色は、今は欲望に濁って、蜜色となった。偽物くんの肩越しに俺の方を向いているが、全く俺を認識できていない。

  「や、山姥、ぎり…」また、大倶利伽羅がそう呼んだ。その声が俺の耳に入ってきた。奇妙な感じがする。

  ——ああくそっ、やめろ。あんな声、あんな表情で、この名を呼ぶのをやめろ!

  ——おかしい。なにがなんなんだ。やめろ、やめろ!

  背筋がぞわっとする。寒い。でも熱い。嫌な汗が出る。息ができない。めまいがする。叫びたい耳を塞ぎたい視線をそらしたい——でも、動けない。

  なんなんだ。この荒くて弱々しい呼吸音は自分のものなのか?何で震えなどしているんだ?何で心臓があんなにもうるさいんだ?何で目が熱いんだ?もう、何もかも、変———

  ——嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ!

  「大倶利伽羅、まっ、待って…」偽物くんの声。
  
  この声を聞いた瞬間、まるでまじないが解けたように、体が動けるようになった。咄嗟に叫び出しそうな自分の口を塞いで、こたつの中に隠れた。

  体が動けるようになったが、頭はぐちゃぐちゃだ。全く状況が飲み込めない、自分の身に起きている事が理解できない、理解したくない。

  体が熱い。こたつの中にいるとなおさら熱い。震えが止まらない。酸欠でくらくらする。手の甲で目を擦って、自分がいつのまにか泣いていたことに気づいた。

  ——くそっ!くそっくそっくそ!なんなんだ一体…!

  こたつの外から、あの二振りによる声や音、そして畳越しに伝わる振動、全部がはっきりしすぎた。もう、なにも聞こえたくない、感じたくないのに。今にも壊れそうな精神を必死に持ち、心を『無』にしようとする。怖い、こわい……もうおわって……

  この地獄はどれくらい続いたのかな。だんだん震えも涙も治まってきた。もうなにを感じればいいのかわからなくなって、麻痺したようにただそこに伏せているだけ。惨めすぎる。

  やっと、静まってきた。

  「…山姥切……」

  ——『山姥切』、『山姥切』…ああくそっ、だからあんな声でこの名を呼ぶな!

  「…どう?まだ辛い?」

  「平気。……悪いが、もう、動けないし動きたくもない。」

  「少し寝ろ。起きた頃、手入れ部屋も空いたはずだ。」

  そしてまた何か物音がする。偽物くんが片付けているのかな——チッ、なにを推測している!想像するんじゃない!

  もうしばらく経った。

  「……山姥切?」頭にかぶっていた布団がめくられた。見上げると、そこには偽物くんの腹立たしい顔があった。

  「…あの、すまない。ちょっと緊急事態でな…途中あんたがいるのに気づいたけど、もう止まらないから…えっと、とにかく、すまない。」

  「ふん。」

  ——なに言ってんだこの間抜けが!?解釈するな!描写するな!さっき見たもの聞いたものを思い出させるな!やめろ!

  「で、手伝い、いるか?」

  「…はっ?」なにを言っている?

  「ああいうものを見せてしっまたからな…お詫びに、口や手だけならしてあげてもいい……あんたさえ良ければ。」

  ——いや、待って。違うだろう。なにを言っている。違うだろう!?

  あいつの目を見返す。

  ——違わない。

  ——なん…と…!

  「良くないのに決まっているんだろう!今すぐ目の前から消えろ、消えろ、き え ろ!」怒りのあまりに気を失うところだった。再び布団を引っ張って頭にかぶる。怒りで震えてきた。

  ——なんなんだなんなんだなんなんだなんなんだくそっくそっくそくそっくそっ!!!

  「ん……山姥切…?どうした?」大倶利伽羅の声。眠そうで、ちょっと掠れている。また、またこの声が…『山姥切』と……ああもう…
 
  「あっ、すまん起こしたか。山姥切がいるんだ。ここに。」

  「えっ?……最初から?」

  「うん。」

  「チッ、なんで気付かなかった……」

  「まあ、俺もあんたのことだけで手いっぱいだし。ああいう状況だから、無理もないさ…」

  「……謝ったか?」

  「謝った。が、なぜか気に障ったみたい。今こたつの中に引きこもっている。」

  ——この……!俺が怒った理由もわからないのか!?あと二振りとも俺を空気にするな。聞こえているぞ。

  「どうやって謝った?」

  「事情を解釈して、すまないと言って、そして彼が良ければ詫びに『手伝い』すると言った。そして怒られた。」

  自分の行為を振り返ってもどこに問題があったか解せないというのか?救いようがない。

  「……それはあんたが悪いだろう。」

  そうだ!よかった、どうやら大倶利伽羅は常識的で——

  「あんたたち、まだ微妙だし。そういうのは俺の方が適任じゃないか。」

  えっ?なに???

  「なるほど。そこには思い至らなかったな。けど、あんた今大丈夫か?」

  待って。なにがなんなんだ?一体どうなっているんだ?違うんだろう?大倶利伽羅??違うんだろう???

  「一応休めたし、問題ない。」

  「じゃあ頼んだぞ。」

  「ああ。あんたは出てろ。」

  「わかった。夕食の時に呼びに来る。」

  襖が開けられて、そして閉められた音。偽物くんが部屋を出た。

  今この部屋に残ったのは、俺と、さっき俺の『手伝い』をすると宣言した大倶利伽羅。

  一体どうすればいい?この刀たち、訳がわからない……

  「おい、山姥切。」大俱利伽羅が言った。「…さっきは悪かった。俺の山姥切の代わりにも謝罪する。」

  「あと『手伝い』だが。いるなら、する。いらなかったらそれでいい。夕食1時間後だ。」

  意外に常識のある話を聞いてホッとした。よかった、頭おかしいのは偽物くんだけで、こいつはまともなんだ……まとも、かな?やっぱりどこか感覚がずれてる気がする……いや、もうどうでもいい、話が通じるだけでありがたいんだ。今はとりあえず、1時間以内、態勢をしっかり立て直すんだ。

  調息。身も心も冷静を取り戻したあと、こたつから出る。

  久しぶりに新鮮な空気を吸った……やっぱりちょっと血の匂いがする。傷を負っている大倶利伽羅からだな。振り向いてみると、大倶利伽羅はこちらを背に、壁に向かって寝ている。畳んだ座布団を枕にしていて、ブランケットをかけている。

  「大倶利伽羅くん、先程はありがとう。助かった。」あの状況になったのは彼のせいでもあるとはいえ、彼のおかげであれ以上ひどいことにならなくて済んだのも事実た。言うべき礼は言う。

  「……いや、こっちこそ、悪かった。」そう答えながら、彼の目は閉じたまま。だいぶ疲れているようだ。

  その横顔を、なぜか見てしまう。

  ——『山姥切……』

  ふと、いつしか頭の奥に焼き付いてしまった、あの表情と声が、勝手に蘇る。

  ——何を血迷っているんだ!

  ハッと気がつき、この狂った感覚を振り解くように首を横に振り、いささかに速すぎた動きで部屋を出た。



  ——前言撤回だ。大抵のことは想定通りなんてことはない。『本丸』に来て、ものすごく、カルチャーショックを受けてしまった俺だ。

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